2011
06.23

「23年の沈黙」

23年の沈黙 [DVD]23年の沈黙 [DVD]
(2011/05/27)
ウルリク・トムセン、ヴォータン・ヴィルケ・メーリング 他

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麦畑の真ん中、真っ赤な車の開かれたドア・・・。

上空から映されたこのジャケットに惹かれて手に取ってみた作品。

ベストセラーとなったコスティン・バーグナーの原作「沈黙」(残念ながら翻訳されていないようです)を映画化した、ドイツ映画です。



7月8日、13歳の少女ジニカが失踪する事件が起こった。
彼女が乗っていた自転車が麦畑で発見される。

その場所は、23年前、11歳の少女ピアが暴行され殺された場所だった。

犯人は捕まらず、未解決のまま・・・。
当時事件を担当し、定年退職を迎えたクリシャンは、
同じ日、同じ場所での少女失踪に同一犯の可能性があると信じ、ダーヴィッド刑事に捜査を依頼する。

だが、ダーヴィッドは、5ヶ月前に妻をガンで亡くし、その悲しみからいまだ立ち直れずにいた・・。


一方、ジニカ失踪事件をニュースで知った建築家ティモは、激しく動揺する。
封印したはずの過去の記憶・・、
脳裏に浮かぶのは、あの麦畑、少女が落としたヘッドフォン、
そして、彼の隣で赤い車を運転していた・・ゾマー。


23年という長い時間を経て、同じ日、同じ場所で繰り返された少女失踪事件。

映画は、事件を巡って登場する人々の姿、その重なり合うドラマをまるで群像劇のように描き出します。


未解決の事件に心を残す、元事件担当官クリシャン、

23年経った今でも娘ピアを失った悲しみの中で生きている母親エレナ、

言い争い飛び出したまま、行方が分からなくなったジニカの身を心配し、ひたすら帰りを待つ両親。


妻を亡くした辛さから情緒不安定なまま、職場に復帰した刑事ダーヴィット。

そして23年前の恐ろしい出来事を忘れるため、姓を変え、ゾマーの元から遠く離れたティモ。


ミステリー的な展開からももちろん目が離せないんだけど、その中にいる彼らの苦しみ、悲しみがじわじわ・・とリアルに伝わってくる。
ここにはヒーローもヒロインもいない。


あの時車で送っていれば・・・そう後悔するジニカの母のつぶやきにかける言葉もなく
時折、ハイになったり、激しく落ち込んだり・・・ダーヴィット刑事の言動がちょっと恐かったり

過去が繰り返されたことに激しく動揺するティモの姿に・・、どうして一人で悩むのか、誰かに打ち明けて欲しい!早く!!とたまらなく不安を覚えたり。


最後の最後まで途切れることのない緊迫感!!



惨いシーンをはっきりと映し出しているわけではないし、派手に怖がらせるわけでもないのに・・
2人の男が乗った赤い車が、ただ麦畑を行く怖さ。

冒頭アパートの部屋でゾマーとティモが二人で8ミリフィルムを見ている・・ただそれだけのシーンまで不気味だった。
ゾマーを振りきれないティモに・・どうして!?という思いが膨らんでいたのだけれど、渡されたDVDを観るティモの表情の変化!
あぁ~~、そうだったのかぁ



上空から映しだされる車の赤、
風にうねる麦の穂、流れる雲。

物言わぬ風景までが、美しいのに・・どこか不穏な空気を隠し持っているかのよう。



事件の解決を急ぐあまりに勝手な行動に走るクリシャンに、それはやっちゃいかんゾ!と憤慨し
ダーヴィットに対する無能な上司の態度には、殴りたくなるほど腹立たしくて

まさかこのまま終わっちゃわないよね~~~と叫んでしまったラストのモヤモヤ感は、いまだ晴れない。


鑑賞後は、辛い思いが残る映画でした。



唯一、救われる思いがしたのは、大きなおなかを抱えながらも捜査に出向く女性刑事のタフさ、暖かさかな。


でも、ラスト、エレナがピアの殺された殺人現場である麦畑にたたずんでいるシーン。

ダーヴィッドは彼女に尋ねます。

「死んだ妻のことが、いつも脳裏から離れません。
いつか、忘れることができますか?」

「・・・いいえ」と答えるエレナ。



その答えを聞いたダーヴィッドの顔に浮かんだ表情が、泣きたいような、でも安堵のような、不思議な表情に見えたまま・・私の中で留まっている。


大切なものを失ってぽっかりと穴の開いた心は、抱えていきるしかない・・。

喪失の哀しみを肯定したかのようなシーンなのに、どうしてだかとても優しく見えてしまったのは、
失ったものへの愛情もけっしてなくなりはしないんだ・・とそのことも感じさせてくれたからかもしれない。

悲しみが大きいのは、忘れることが出来ないのは、その人をとても愛していたから。

見つめあう2人は、そのことも痛いほど感じとったのではないかしら。




ドイツ批評家映画賞ノミネート作品ながら、日本では未公開作品。
地味だけど、とても心を揺さぶられる映画でした。

地味映画推進委員会のみなさまにもどうかしら?と思うけれども・・・あまりにももやもや感の残る作品でもあるので、お薦めするのは自信がないわ~~


興味を惹かれた方はどうぞ~。
ただーーし、後味の悪さときたら。
落ち込んでいる時には決して観ないでくださいね~

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コメント
瞳さんもこの作品見られてるなんて!
未公開がもったいないくらいのクオリティでしたね。
いやもう本当に後味が悪いったら……。
あの犯人の男のラストの淋しそうな佇まいが意外でした。
彼はただ単純にティモという友人と会いたかったor取り戻したかっただけなのでしょうか?

刑事さんとピアの母親のシーンも印象的でした。

>喪失の哀しみを肯定したかのようなシーンなのに、どうしてだかとても優しく見えてしまったのは、
失ったものへの愛情もけっしてなくなりはしないんだ・・とそのことも感じさせてくれたからかもしれない。

なるほど、逆説的にそう考えられますね。
瞳さんはやっぱりとても優しい人なのだと思います。
わたしじゃ考えつかなかった。

ドラマの運びも演出も上手かったですね。
あのモヤモヤ感の残る終わり方も現実的なのかな……。
いや、拾い物でした!
リュカdot 2011.06.27 00:03 | 編集
> リュカさん、こんにちは。

おおーーー!リュカさんもご覧になったの~~!

わぁわあ!!嬉しい~(笑)
そうなの、後味があまりに悪いからお薦めもできないしねぇ、でも誰か見ていたら、ぜひぜひお話したい~!って思う作品なんですよね。

> あの犯人の男のラストの淋しそうな佇まいが意外でした。
> 彼はただ単純にティモという友人と会いたかったor取り戻したかっただけなのでしょうか?

そうでしたよねぇ。
彼のしたことは絶対許せないし、ああいう事件をまた起こすことがメッセージ・・なんてとんでもないヤローだ(苦笑)って思うんだけど、あの最後の表情がね・・、寂しそうで。
彼もまた(自分が友と思う)人を失った喪失の哀しみを抱えていきるのかしら・・と思うと複雑な思いがしましたね。


> 瞳さんはやっぱりとても優しい人なのだと思います。
> わたしじゃ考えつかなかった。
いえいえ、私弱~~いヒトだから、そうでも思わないと辛くって。
そうであったらいいなあ・・って思ったように見ちゃうんですヨ。


> ドラマの運びも演出も上手かったですね。
> あのモヤモヤ感の残る終わり方も現実的なのかな……。
> いや、拾い物でした!
群像劇風の描き方もね、風景とかの使い方も印象的でしたよね。
ラスト近くの、女刑事の尋問と、湖で佇むティモが交互に映るあの展開とかね・・上手いですよねぇ。
あの終わり方も、確かに現実味がありましたねぇ。
dot 2011.06.27 14:12 | 編集
瞳さん、おはようございます。
来週が時間に縛られる週間になるので、今のうちに・・と、今度はこれを借りて見ました。

不穏な雰囲気いっぱいな物語でしたね。
私も、サスペンスと言うより、事件を通しての人間ドラマな印象を持ちました。
感じとしては、ちょっと「湖のほとりに」を思い出したり・・。
映像はたまに「ドニー・ダーコ」だったり。(笑)
大切な誰かを失う事の重大さと言うか・・孤独感がつのりながらも
そんな誰かと一緒に生きてこれた幸せをかみしめる・・そんな余韻が残りました。

それから・・全然違う話&ここでナンですが;;
この間TVにアンガールズ田中が出てて、
彼って、10年くらい前から、紅茶を(勉強?)してるらしいです。
で、自分のカップやポットとかもちゃんとこだわって持ってて、
皆におちょくられながらも丁寧にふるまってるその姿見たら、
ちょっとステキに見えました・・・・・。
恐るべし、紅茶マジック!(笑)
つるばらdot 2011.11.10 09:34 | 編集
>つるばらさん

おおーー、こちらも鑑賞されたんですね!
コメントありがとうございます。

凄いわぁ、つるばらさん、いっぱい観ていらしゃいますねぇ。
私もおひとり様の時にどんどん見ちゃおう(笑)

「湖のほとりに」
あぁっ、そうですね!どちらもしみじみとした人間ドラマでしたものね。

「ドニー・ダーゴ」なるほど~(笑)分かります!!

>大切な誰かを失う事の重大さと言うか・・孤独感がつのりながらも
そんな誰かと一緒に生きてこれた幸せをかみしめる・・そんな余韻が残りました。

つるばらさんのこの言葉、かみしめましたよ、深いわ~!!


そして、あらまぁ、アンガールズ田中さん。
そうなんだぁ♪
うわあ、それは見たかったです。ちゃんとポットやカップも温めて淹れてたんですね、きっと。

どうしよう、私見てたらきっとクラクラしちゃってたかも(笑)
紅茶が好きな人に弱いもの~。
ちょっと見る目が変わりましたよ(笑)楽しいお話、ありがとうございます♪

dot 2011.11.10 19:43 | 編集
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