2011
05.12

「彼女が消えた浜辺」

彼女が消えた浜辺 [DVD]彼女が消えた浜辺 [DVD]
(2011/04/22)
ゴルシフテェ・ファラハニー、タラネ・アリシュスティ 他

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カスピ海沿岸のリゾート地。
数組の家族らを中心に友人たちが集まったグループが、3日間のヴァカンスへと向かう。

その中にグループの人々とは初対面の女性が一人。
世話役セピデーが、子どもが通う保育園の先生エリを招待したのだ。ドイツで離婚し、傷心のアーマドにエリを紹介するのが目的だ。


だが、予約していたヴィラに手違いで泊まることが出来ず、海辺の別荘へと案内された一行・・。
それでも和気あいあいと楽しく休みを過ごす人々だったが・・・翌朝、思いがけない出来事が起こってしまう。

海で遊んでいた男の子が溺れ、間一髪救助されたのだが、ほっとしたのもつかの間、エリの姿が見えないことに人々は気づく。

助けに向かい溺れてしまったのか・・それとも・・・。



地味映画推進委員会のメンバーさんからご紹介いただきました。

イラン映画です。
本国イランで2009年の興行収入第2位の大ヒットを記録するとともに、ベルリン国際映画祭で最優秀監督賞(銀熊賞)を受賞しました。



まず、冒頭のシーンから引きつけられます。

暗闇の中に、四角い窓。そこから漏れる光と音は・・何やら町の雑踏のよう。
時折投げ込まれるものがあることから、それがポストであることに気づきます。何故?ポスト・・?しかも内側から見せるなんて・・と不思議に思っているうちに

その暗闇が・・・トンネルへと変わり、ヴァカンスに出かける人々が車から身を乗り出し、嬌声をあげるシーンへと変わっていくのでした。

う~ん、不思議!印象的!

・・というか、イランの人々でもこんな風に騒いだり、大声あげたりするんだねえ・・っていやはや、いったいどんな風にイランの人を捉えているんでしょうか、私。
車がプジョーだったり、持っているバッグがヴィトンだったり・・・と、ちょっとしたカルチャーショックを受けたりして


やがてリゾート地へ向かう人々の会話から、勝手知ったる間柄の人々の中にひとり、初めて招待された女性がいることが分かってきます。

グループの世話役セピデーに誘われ、ヴァカンスに参加したエリ。
決して出しゃばらず・・・少し距離を置きながらも・・時折笑顔も見せて。
内気ながらも可愛らしい雰囲気を持った彼女に誰もが好感を抱くのですが・・でも、どこかミステリアスな部分も感じさせるエリ。
グループの中で異邦人的な立場にあるエリから、私、目が離せませんでした。


ほんのちょっとしたシーンなのですが、キッチンで一人たたずむ姿や、アーマドとのことをからかわれた時の表情。
翌朝、帰らなければならないと必死でセピデーに訴える姿も。

こうしたひとつ、ひとつの小さな出来事が、後になって、どれほど思い出されたことでしょう。
あの時、エリはどう感じていたのか、どう思ったのか。

「彼女が消えた浜辺」
このタイトルの表すとおり、翌朝、海辺で彼女は忽然と姿を消してしまいます。
浜辺で遊んでいた子どもたちをひとり見ていたはずのエリ。海で溺れてしまった男の子(一人波打ち際にいる姿には見ているだけでハラハラしどうしでした!)を、男性たちが必死で助け出している間に・・。

もちろん、皆はエリが男の子を助けようとして海で溺れたに違いないと捜索を頼むのですが・・彼女は見つかりません。



しかし・・・ここからだんだんと・・・エリのいろいろなことが明らかになってきます。
いえ、正確に言うと、エリについて何も知らなかったということが明らかになっていくのでした。

本名は?家族は?
なぜ彼女はあんなに帰りたがっていたのか・・かかってきた電話に出ようとしなかったのは何故なのか。

彼女の携帯は・・どこに?バッグは?


エリの失踪を受けて、人々の中に、さまざまな思いが渦巻いていく。
あ、この人はこんな風に(エリのことを)思っていたんだ・・とか、友人同士でもこんな思いがあったんだとか。

ひとつ事実が明らかになるにつれ、夫婦の間に不信感が生まれ、友人たちの間にイライラが広がってゆく・・。

自分たちを守ろうとしてついた嘘が、やがて・・また嘘を呼び、
隠していたはずのものが、波紋となって広がり、やがてどんどんと大きくなってゆく・・。


どうしたらいいんだろう?
まるで自分までがこのグループの一員のような気持ちになって誰かの言葉に反発したり、同調したり。


だんだんと明らかになる真実が、人々を悩ませ、苦しめてゆく中、特にセピデーの立場の辛さときたら。
美しくあでやかな笑顔を見せていた彼女が、後半にかけて、どんどんとやつれてゆくのが痛々しかったです。


最後の最後に、彼女はつきたくはなかった嘘をつかなくてはならなくなってしまう。
そのことが、これからの彼女をどれだけ苦しめることだろうと思うとそれがまた辛くて。



アーマドの離婚した元妻が最後に語った「永遠の最悪より最悪の最後の方がまし」の言葉を聞き、全くその通りだわ・・と謎めいた表情を浮かべたエリ。
皆で楽しんだジェスチャーゲームでの、あの一生懸命さ。

そして、あの朝、凧を揚げ、浜辺を走りながら笑っていたエリの姿。


後半は全く登場することのない、エリの姿がたまらなく恋しくなってしまう。



冒頭のあのポストのシーンは、こうしたエリの失踪という事件を受けて暗闇の中、模索する人々の心を表していたのかしら・・と思ったり
浜辺の砂にタイヤを捕られ・・動かなくなってしまった車を必死で押す人々の姿を見せるラストシーンもまたどこか暗示的でした。

抜け出そうとすればするほど・・身動き取れなくなってしまう。



GWに鑑賞した作品ですが、思い出すたび・・さまざまな思いがいまだ渦巻いて。
なかなか感想が書けませんでした。

あぁ、なんて後引く映画でしょう!





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彼女が消えた浜辺 [DVD]2009年 イラン 監督:アスガー・ファルハディ 出演:ゴルシフテェ・ファラハニー    タラネ・アリシュスティ    シャハブ・ホセイニ    メリッ ...
彼女が消えた浜辺 dot 菫色映画dot 2011.05.18 21:43
コメント
>冒頭のあのポストのシーンは、こうしたエリの失踪という事件を受けて暗闇の中、模索する人々の心を表していたのかしら・・と思ったり

あのオープニングをどう捉えるのか考えましたが、なるほど、瞳さんの意見がしっくり来ました。
みんなが暗中模索していましたものね……
なかなかエリという女性の本質も全体像も見えないのは観客も同じで、新しい事実が出るまでは本当に彼女がどんな行動をとったのか判らなかったです。
でも結局彼女は助けに海に入ったんですね。
本当に節度ある、やさしい勇敢な女性だった……。
わたしも全部を知ってから前のシーンを思い出すと、彼女が恋しくなりました。
いや~、後をひきまくる作品と云うのも超同意です。
リュカdot 2011.05.18 21:42 | 編集
>リュカさん
オープニングのポストのシーン・・・、不思議なシーンながら、すごく印象的でしたね。
小さな窓だったでしょう(ポストですもんね)、だから、外からは少ししか見えないけれど、実際内側にはいろんなものが隠されているんだよ~っていうことかもしれないなぁ・・とかあとで思ったりしたんですよ。
監督、なんていろいろ想像させるんでしょうねぇ。

>なかなかエリという女性の本質も全体像も見えないのは観客も同じで、新しい事実が出るまでは本当に彼女がどんな行動をとったのか判らなかったです
そうですよね、だから私たちも残された人々同様、翻弄されちゃうんですよね。

可愛い女性でしたよね、そして芯もしっかりしてた・・・。
いまだにいろいろ思っちゃう作品です。
今年前半見た中では、地味ながらもしっかりと心に想いを残した作品だわ~と私の中で高評価な作品デス。
dot 2011.05.19 20:32 | 編集
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