fc2ブログ

Slow Dream

縁あって・・・本や映画と巡りあう。




「ザ・ロード」 :: 2010/12/10(Fri)



暗雲が垂れ込める暗い空、気温が下がり続け、植物も死に絶えた世界。
降り積もる灰に覆われてすべてが廃墟と化した地上をひたすら、南へと向かう父と子。

飢えに脅え、寒さに震え、殺人や略奪をいとわない人々から逃れ・・・。


ピュリュッツァー賞を受賞したコーマック・マッカーシーの原作「ザ・ロード」を先に読みました。
あまりにも過酷な親子の旅。
読みながら、同じように震えを覚え、常に死と隣り合わせの身に・・痛みを覚えながら。

そんな原作の世界を、映画も辛いほど見事に表現していました。

寒さの白、不安が広がる灰色の空。
木は割れ、音を立てて倒れてくる、身を寄せながら、手をつなぎ、互いを確認しながら道を進む親子。
まわりを伺い、襲いくる人々からただただ逃れることしかできない。
身を守ってくれるのは、一丁のピストルだけ。
残された2発の銃弾は敵をしとめるためのものではなく、耐え難い死が襲う前に、自らの死を迎えるためのもの・・・。

映像として映し出されると、その寒さや、怯えや、恐怖。
飢えから人肉を求める人々の恐ろしさや悍ましさも・・、より一層感じられました
息をひそめて、ただずっと隠れ続けている親子の姿にこちらも息が止まりそうになったり、少年の呼ぶ「パパ!」の声に思わずびくっとしてしまったり。

ですが、そんな辛いシーンや、苦しい思いばかりが心に残ったか・・というと決してそうではありませんでした。
シェルターの中にたっぷりと貯蔵されていた食べ物を発見し、
いったいいつぶりかわからないくらいであろう湯を浴び、髪を切り、服を着替え、互いに不思議な表情で見つめあう親子。
食べ物を与えられたことを感謝し、それを言葉にする息子を誇らしそうに見つめる父の表情。

そう、原作よりも多く描かれた、かっての地上の姿、回想シーンも印象的でした。
花が咲き、暖かい陽光が輝く冒頭のシーンの、息がとまるほどの美しさ!!
眩しい世界、美しい妻(シャリーズ、綺麗!!)
かって青かった海を前に、車の中でまどろむ二人の姿。

「おれが神なら、同じように世界を作る」そうつぶやいた父親の言葉が、胸に残ります。

ただ・・・ひとつ、残念に思ったのは。
私が原作でとても感銘をうけた父と子の会話のシーン・・・、これは少なかったように思います。

カートにせめて息子だけでも乗せてやろうとする父親。
だが、少年は言う。
「いいよ、それは。」
「ほんのちょっとだけでもどうだ?」

「いいよ、遠慮する。」

お湯をわかし、お風呂に入ることができた親子。
感想を聞かれた息子が父に言う
「待望の温かさだよ」
「待望の?、どこでそんな言葉を覚えた?」

絶望の淵にありながら、決して言葉をかけあうことを忘れない親子の、その会話の美しさに涙する・・
そういう言葉的な部分が少なかったのは、やはり映画だからかなぁ。

でもかっての美しい世界を知らずに育った少年の、恐怖の中にあっても、失われない純粋さ。
コディ・スミット・マクフィーくん、とても良かったです    
自身も怯えながら、時には息子の訴えを遮り鬼となって、ただ必死に息子を守り、旅を続ける父親。
ヴィゴ・モーテンセンの演技も、素晴らしかった~。
頬もこけ、なんて細い体!!
まるでキリストのような風貌になりながら、息子に向ける視線の優しさ、暖かさ。
頬に何度もキスを与えるシーンも忘れられません。

この映画を何度も見返すことが出来る人は、ほとんどいないと思う。
あまりにも辛く、あまりにも痛々しい。

けれども、こんなにも絶望感に溢れながらも、決して失われない希望を感じてしまうのは何故だろう。
善き人であり続けたい、心の火を消さないように。
歩き続ける親子の姿に、その道から続いてゆく・・・小さな、かすかな灯りが暗闇の中にいつまでも灯っている。
そんな思いを後押ししてくれるかのような
エンディングの間に聞こえてきた音も嬉しい。

善き人たちと南へ向かった子どものその後を暗示させるかのように。
きっと彼らは、火を灯し続けているに違いない・・、かすかながらその希望の火は決して消えることがない。
そう感じさせてくれたのでした。
  1. 映画タイトル(さ行)
  2. | trackback:1
  3. | comment:2
<<「ブライト・スター いちばん美しい恋の詩」 | top | 「ユニバーサル・ソルジャー リジェネレーション」>>


comment

こんにちは

瞳さんは原作を読まれていたんですね。
映画では語られなかった親子の会話が興味深かったです。そうなんですね、彼らは声をかけあうことをやめなかった……。
人間らしくあろうとする父と子の姿は心に響きました。

父親が痩せこけてキリストのような風貌になった、というのは言われて気づきました。
なるほど~、製作側もそんな狙いがあったのでしょうね。

それからあのエンディングの音。
あれってやっぱり生活音ですよね?
また文明が復興するという暗示ですよね?
ラストに希望が見えたのが何よりうれしかった作品です。
  1. 2010/12/19(Sun) 13:21:54 |
  2. URL |
  3. リュカ #-
  4. [ 編集 ]

おはようございます

>リュカさん
映画と原作、いつもどちらから先に・・って悩むのですが、この作品映画は香川で上映が無かったので、先に原作を読んでみました。
原作は、彼らの会話を中心に・・と言ってもいいくらい親子のかわす言葉が印象的でした。

途中登場する老人の名前はイーライ。
(原作もそうでしたが)こちらの意味についても考えてしまいますね。

エンディングの音は、そうですよね、リュカさんも書かれてて嬉しかったです。
最後に希望の光が見える・・救われますよね。
弱虫なので、最後まで悲しいままだと・・くじけちゃいます(苦笑)
  1. 2010/12/20(Mon) 08:56:33 |
  2. URL |
  3. 瞳 #-
  4. [ 編集 ]

comment


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://teapleasebook.blog26.fc2.com/tb.php/357-f33c7195
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

ザ・ロード

ザ・ロード [DVD]2009年 アメリカ 監督:ジョン・ヒルコート 出演:ヴィゴ・モーテンセン    コディ・スミット=マクフィー    ロバート・デュヴァル    ガイ・ピアース ...
  1. 2010/12/19(Sun) 13:23:11 |
  2. 菫色映画