2008
02.15

「その名にちなんで」

その名にちなんで (新潮文庫 ラ 16-2)その名にちなんで (新潮文庫 ラ 16-2)
(2007/10)
ジュンパ・ラヒリ

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名は体を表す・・という言葉があるけれど、彼の場合はどうだったのだろう。
インドからの移民である両親がアメリカの地で息子につけた名前は、ゴーゴリ。

かって父親が列車事故で生死の境をさまよった時、彼アシュケの命を救った1冊の本、ニコライ・ゴーゴリの短編集にちなんで。


幼いときはその名になんの違和感も覚えなかったゴーゴリ。

しかし、成長するにつれての名前へのコンプレックスに悩み、ついにはゴーゴリは改名を決意する。
また両親とは違いアメリカで生まれ育った彼には、父母の持つインドへの郷愁も理解できない。

アメリカに移り住んたインド人夫婦が家を構え、子供達が生まれ、やがて成長してゆく・・。
決して目新しくはない移民一家の物語なのに、とても引き込まれて読んでしまった。
移民一世である親の世代と、子どもの世代、そのアイデンティティーの持ち方の違い・・などという、深くて難しい問題もあるだろうけれど。

それよりなにより、私はこの一家に惹かれてしまったのだ。
インド人なのに、ロシア系の名前をつけられた少年ゴーゴリ、彼を見守るアシュケとアシマ夫妻。
中でも母アシマはこの物語を最後までしっかりと支える、魅力ある人物だと思う。

アシュケ夫妻の視点、ゴーゴリの視線・・、後にはゴーゴリの妻になる女性の視点。
物語はひとりの側から描かれてはいない。
中心はゴーゴリでありながら、それぞれの人に語りを任せることで、この家族の中により深く入っていけたような気がするのだ。

彼らの住まい、食べ物、どんな風に話し、どんな人と付き合い、どんな風に暮らしているのか。
そういう描写の詳しさにも、彼らの姿がしっかりと浮かんでくる。


物語にはいくつか、皮肉なシーンが用意されている。

自分というものの存在の不思議さ、不可思議さをゴーゴリという名前に感じた少年が改名した後に、父から聞かされた「壮絶な事故の話」。
もっと以前に聞かされていたら、ゴーゴリのままだったのだろうか、それとも・・。

何人かの女性との恋の後、彼が妻に迎えたのは同郷のひと。
自らの中のゴーゴリとしての時代を知る人を選んだ彼に、彼女がした仕打ちもまた皮肉なもののように思える。

人生には、こうしたことも多いのかもしれない。

けれど、ラストシーンで、忘れられた本に再び出会い、ページをめくる彼の手にはもう戸惑いも、迷いも見られない。
父から送られた物語は、いま、こうして彼の元へと帰ってきて。
静かに彼の中の一部となってゆく・・。


映画化もされていて、上映中のところもあるとか(香川にも来ないかなあ)。
ぜひ観てみたい!楽しみな作品です。
以前読んで「う~~ん」と唸っただけで終わった(苦笑)著者のデビュー作であり、ピュリツァー賞受賞作「停電の夜に」も、もう一度本棚から出してみようかと思うんですよね~。

 
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