北鎌倉に住む大学教授の曾宮周吉は、早くに妻を亡くし、それ以来娘の紀子と二人で暮らしてきた。
なにかと身の回りの世話をやいてくれる娘に感謝しながらも、娘が婚期を逃しつつあることも気がかりでならない。
周吉の妹マサも、紀子にせっせと縁談を勧めるのだが・・・。
BSで放映された小津作品。相変わらず渋好みの息子と鑑賞です。
小津監督作品というと、私などは(イコール)=原節子さん・・と連想してしまうのですが、原さんが初めて監督の作品に出演したのが、この「晩春」なのだとか。
そんな原さんの(監督作品)デビュー作の本作、とてもいろんな意味でビックリ、驚いた作品でもありました。
まずは、原さん演じる紀子。
こんなに激しく感情を見せる役だとは・・。
私が勝手に思い描いていた原節子さんのイメージ(物静かで、しっとりと落ち着いていて・・)とは全く違う、
初々しくて、かわいくて、思いこみが激しくて・・ちょっぴり恐いような部分もあって。
でも、もちろん、とても綺麗な原さん!!
これは・・いいもの観れたわぁ~(笑)
父親の助手の男性と自転車で海辺を散歩するシーンの紀子の笑顔。
「私意外に嫉妬深いんですの、たくわんを切ると繋がってしまうんですもの」と笑ったり
再婚した父親の友人には
「そうよ、汚らしいわ、不潔よ」
なんてバッサリと言っちゃったり・・、それもあの美しい笑顔を浮かべたまま(汗)
友達のアヤとは、それはもう、友人同士の気の置けない会話を繰り広げ、手をつないで笑いあったり・・かわいいのです。
でも、そんな映画前半ずっと浮かべていた紀子の笑顔が、後半、とてもビックリ、恐いような怒り顔になっちゃうんですね。
縁談を勧められつつも、自分が嫁いでしまったら父親が一人になってしまう・・。そう思い、断ろうとしていた紀子は、父親の再婚話に激しいショックを受けてしまう。
一緒に見に行った能の舞台をじっと・・じ~~っと見つめる紀子の・・思いつめたその表情。
友達のアヤとは言い争って帰ってしまうし・・、
美人が怒ると恐いって・・本当ですねぇ。
再婚なんて不潔!と思いこんでいたのに父親までが・・と思う気持ちと、自分がいなくては・・という思いがこんなにもあっさりと覆されてしまったショック。
父と娘、これまで二人で暮らしてきた年月の長さ。そこに入り込んでくるものに対する想いって複雑なのだろうなあって思います。
そんな風に感情をいっぱい見せてくれる紀子に対して、父親を演じる笠智衆は・・・笠智衆さん・・なんですねぇ(笑)
そう、いつものとおりの・・あの笠智衆さん、いいですよねぇ。
妹マサを演じる杉村春子さんとのやり取りの面白さ。
結婚式でしっかりと食べていた花嫁について「わたしゃ、あんなに食べれないわ」というマサさんに
「いや、食う、食う」と答えたり
紀子の縁談相手の名前の「熊五郎」について「くぅちゃんって呼ぼうと思うのよ」と話したり。
こうして言葉にしてみたら、なんていうことのない会話のはずなのに・・これが最高に可笑しいのです~。
紀子の抱えるぴーんとした緊張感と、こういうふふっと笑ってしまうゆるり~とした部分・・これがなんとも絶妙なのです。
京都の石庭や
父と娘が泊った部屋に置かれた美しい花瓶の・・・ただ花瓶だけのアップのシーン。
物言わぬシーンから・・漂ってくる不思議な空気もなんともいえません。
そうそう、そして嬉しい驚きはまだありましたよ。
なんと、紅茶のシーンがあったのです♪
お茶のおともにショートケーキまで登場したりして。
ハイカラ?じゃありませんか~~。これはぜひ、久々にTea&Cinemaに挙げたいものです。
娘を嫁がせた周吉が、ひとりりんごを剥き、静かにうなだれるラストシーン。寂しさがじんわりと・・じんわりと胸に込み上げてくる・・いいシーンですね。
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